はじめに
平成30年4月から施行された改正宅建業法では、不動産事業者は中古住宅の売買契約時に、売主に対し住宅診断を行うかどうか、買主に対しては住宅診断を実施したかどうかの告知の義務付けの内容が盛り込まれました。
業法改正後、中古住宅売買取引に住宅診断(ホームインスペクション)が徐々にではあるが利用が促進され、安心して売買取引が行われていくものと思われます。
今回、本文では買主がおこなう住宅診断(ホームインスペクション)のベストタイミングがいつなのかを詳しく解説します。新築の建売住宅で住宅診断をお考えの方は、『売主』を『住宅メーカー』と読み変えれば、建売住宅においてもほぼ同じ内容としてお読みいただけます。
1. 中古住宅売買の流れ
一般的な中古住宅の売買は、「媒介契約(売主の売却依頼)」⇒「内覧(予約)」⇒「購入申込み」⇒「売買条件の調整・合意」⇒「重要事項説明」⇒「売買契約の締結」⇒「住宅ローンの締結」⇒「決済(引渡)」⇒「入居」といった流れになります。この流れのどのタイミングで住宅診断(ホームインスペクション)を実施するのかが問題となってきます。
2. 理想の実施タイミング
最も理想的なタイミングは、「購入申込み」から「売買契約の締結」までの間に住宅診断(ホームインスペクション)を実施することがベストです。このタイミングであれば、売買契約が締結される前なので、検討物件に瑕疵(欠陥)や不具合が見つかったとしても、以下の対応が可能となり、トラブルに発展しにくいのです。
① 瑕疵又は不具合箇所は、売主が補修修繕の処置をした後に契約する
② 補修修繕費用を予定の売買価格から差し引いて契約を締結する
③ 補修修繕することが不可能と判断できる場合、例えば多額な費用がかかるような瑕疵の場合、契約を締結しない
ところが、ここで一つ問題となることがあります。一般に「購入申込み」から「売買契約の締結」までの期間が短期間(数日~1週間)であることが挙げられる。住宅診断(ホームインスペクション)の実施までにかかる期間は、およそ診断申し込みから一週間前後要します。売主、買主、インスペクション事業者、不動産事業者という複数人の予定の調整が必要となり、よって少なくとも購入申込みをするまでに不動産事業者に住宅診断(ホームインスペクション)実施の意向を伝えることが重要なのです。
3. 売買契約後に住宅診断できるか?
次に、「売買契約の締結」から「決済(引渡)」までの間に住宅診断(ホームインスペクション)を行う場合はどうか。
住宅診断(ホームインスペクション)の結果、構造にかかわる部分の瑕疵、例えば柱や梁の腐食やシロアリ被害、また給排水管からの漏水がインスペクションでわかった場合、買主は売主に対し、補修など何らかの請求依頼ができるかもしれません。しかし、買主は、売買契約上、決済・引渡日までに住宅購入にかかわる代金を支払わなければならないので、瑕疵や不具合が住宅診断(ホームインスペクション)で見つかったからといって、買主だけの意向で契約破棄にはできないのです。ただ、買主は売主に対し代金未払いの状態なので、最悪の事態は回避できるでしょう。
では実際このような事態が発生した時はどうなってしまうのか?売買価格の変更契約を締結するなど、新たな売買契約締結を行うことができるかもしれません。しかし、売主と買主との間でトラブルが起こる可能性が高いため注意が必要となってきます。
まとめ
終りに、「決済(引渡)」以降に住宅診断(ホームインスペクション)を行う場合は“あり”か?
通常、売買契約の条項に、契約時に売主と買主が知り得なかった住宅の瑕疵や不具合は、引渡しから3ヶ月以内に買主が発見した場合、売主に対し瑕疵担保責任を負わせるといった条項を設けることができます。こうした条項を設けることができれば、決済(引渡)後に、住宅診断(ホームインスペクション)を実施しトラブルを未然に防ぐことも可能になります。しかし、築年数が古い住宅は瑕疵担保責任を免責としている住宅が多いので注意が必要です。
とはいえ、決済(引渡)後では、売買代金は売主の手中にあります。例えば、売主がその住宅を債務返済が主目的で売却していたならば、売主は債務返済を既に行いお金を持っていないケースが多いのです。この状態で売主にとやかく言っても、何も対応してくれない可能性が高いことを知っておくべきでしょう。
結論として、住宅診断(ホームインスペクション)の実施を考えた時には、『契約締結前』に実施することを強くお勧めしておきます。